授業風景

「保健医療福祉における文化理解」

2023年09月20日

担当 錦織信幸先生

 

 

経歴:

山梨大学を卒業後、地域医療に従事した後、
国境なき医師団、UNICEF、WHOなどを通じて
アジア、アフリカの途上国を中心に
国際保健医療協力や公衆衛生の施策と実践に関わる。

 

「文化理解」というと、みなさん諸外国の文化を理解することと思われるかもしれませんね。「文化」を人の集団における価値観や認識の体系であると考えると、国ごと、地方ごとの大きなくくりから、地域、学校、家族、そして個人、の小さなくくりまで、その単位は拡大縮小可能(階層的)でさまざまです。究極的には一人ひとりがそれぞれ固有の文化を持っていると考えることもできます。

医療人類学の視点では医療従事者と患者はそれぞれ異なった文化を持つと考えます。
医師は、科学とくに西洋医学という文化体系の中で、蓄積された科学的なデータと症状を照合し、「疾患(disease)」を診断します。一方、患者は疾患によってもたらされる心身の不調を経験し、それに伴う様々な社会的影響をすべてあわせて「病い(illness)」を経験します。病いは一人ひとりの患者に固有の体験であり、他者がそのすべてを理解することは不可能です。

この授業では、他者の病いの経験をナラティブ(物語)として傾聴する技術を学び、身近な人へのナラティブ聴取の実践を行う中で、個々人の文化に興味を持ち理解する姿勢を学びます。さらに病いのナラティブは、病むことの意味を患者が見出し、乗り越えることで、治療的な意義もあると考えられています。聞く力は、医療現場だけではなく、家庭や職場など多くの場面で活かすことができる、人生に有益な技術です。

一人ひとりの病いの経験を未知の文化と捉え、関心を持ち、思いを馳せることが重要です。個々の文化を尊重し興味を持つという姿勢が、国際的な多文化共生の場面においても重要な基本態度となります。国や国民性など普遍化しながら多文化共生のあり方を考える視点と、個人の事情や状況、立場など、個々が持つ文化を理解しようとする視点を持つことがそれぞれ重要になると考えます。この授業が、受講者の皆さんが文化を多様な見方で捉え、より深く他者や他文化を理解する能力を発展させていく一助となれば幸いです。

(2023.09.04 インタビュー)